「お疲れ様です。お先に失礼します」時短勤務の同僚の帰宅する背中を見送りながらデスクに山積みの書類と鳴り止まないチャットの通知にため息をつく。
「いいよね早く帰れて」「その分の仕事、結局誰がやると思ってるの?」
ドロドロした感情が湧いてきて、そんな自分に「なんて心が狭いんだろう」と罪悪感を抱いてしまう。 ……そんな毎日、もう限界ですよね。

【元人事が見たAさんのエピソード】 時短勤務者が多い部署にいたAさんは業務のカバーに追われる毎日。自分のメイン業務はいつも後回しで残業時間は増えるばかり。
いちばんの絶望は評価面談でした。「業務のカバーを頑張ってくれたのは助かるけど肝心のAさん自身の目標達成度が低いね」 そんな上司の言葉に彼女の心はポッキリと折れたのです。
都合よく使われる自分にもう限界。やってられない。でもAさんはそこで感情をぶつけるのではなくある「賭け」に出ました。
今回は人事歴15年の視点とAさんエピソードを交えてあなたの優しさが会社や組織に都合よく使われてしまわないためのコツをお伝えします。
その「むかつく」は心が正常な証拠です

「時短の人の分まで頑張らなきゃ」「お互い様だし……」 そんな善意で自分を奮い立たせていませんか。
負の感情を持ってしまうのは、わがままだからではありません。「労働の対価(給与)」と「負担(業務量)」のバランスが明らかに崩れているから。
Aさんのように「自分の仕事は評価されないのに他人のカバーだけが増えていく」状況は組織として健全ではありません。
「自分は心が狭いのかも」なんて罪悪感は今すぐ捨ててくださいね。まずは「怒って当然だ」と自分の心にOKを出してあげてください。
実録:Aさんが上司に突きつけた「業務改善提案」

限界を感じたAさんが行ったのは感情的な抗議ではなく徹底的な「数値化」と「具体的な改善策の提示」
彼女は1ヶ月かけて以下のデータを取り上司に面談を申し込みました。
- 【業務時間の内訳】:自分の本来の業務(30%)他人のフォロー・カバー業務(70%)
- 【残業理由の特定】:「急ぎのカバー依頼」が週に平均5件発生しそのたびに自分の業務が3時間中断されている実態
彼女は上司にこう告げました。
「納得がいかないという感情でお話ししているのではありません。このままでは私のメイン業務が停滞し続けチーム全体の目標達成に支障が出るというリスクのお話です」
ただ「しんどい」と言う代わりに「業務担当の分散」と「無駄な業務の洗い出し」を具体的に提案。
「この会議、報告だけで終わってますよね?チャット報告に切り替えれば全員の時間が週2時間浮きます。その浮いた時間をフォロー体制のバッファに回しませんか?」
この提案がきっかけでチームの業務は見直されAさんの負担は劇的に改善されたんです。
元人事が明かす「しわ寄せ」を押し付ける会社のズルい本音

人事として多くの現場を見て確信していることがあります。
会社(上司)は現場が「誰かの善意と根性」で回っている限り人員不足という根本的な問題を解決しようとしません。
あなたが無理をしてカバーし続けることは会社に対して「あ、この人数と体制でも仕事回るんだな」という誤ったメッセージを送ることに。
これを「善意のパラドックス」と呼びます。 あなたが倒れるまで頑張れば頑張るほど会社は「今のままで大丈夫」と安心し新しい人を雇ったり業務を削減したりするチャンスを逃してしまうんです。
つまり、あなたの「頑張り」が結果として「改善の遅れ」を招いている……なんとも皮肉な話ですよね。
「カバー疲れ」から自分を守るための3つの自己防衛策

Aさんのように状況を変えるために自分の意志で「境界線」を引きましょう。会社が変わるのを待っていても、あなたの体力が持ちません。
① 「見えない業務」を徹底的に可視化する
Aさんのようにカバーに費やした時間を記録してください。上司に現状を正しく認識させるための「エビデンス(証拠)」になります。
- 時短の方のカバーに1日、何時間使ったか
- 本来の自分の業務が、どれだけ後ろ倒しになったか
② 「できません」ではなく「優先順位」を問う
業務が溢れたとき上司にこんな伝え方を試してみてください。
「○○さん(時短勤務者)のカバーを優先すると私のC案件業務が止まってしまいますが、どちらを優先しますか?」
ボールを上司に投げ返す。判断を上司に委ねる。「仕事が回らなくなる責任」をあなたが背負う必要はないんです。
③ 心理的距離を置く「境界線」
「お互い様」は余裕があるときに使う言葉。
「同僚を助けられない自分」を責めるのではなく「リソース配分を間違えている会社」を冷静に眺める視点をもってみてください。
感情が爆発する前に|元人事が教える「賢いSOS」の出し方

不満が溜まると、つい時短勤務の本人にチクリと言いたくなるかもしれません。
でもそれは逆効果。相手も制度の中で必死な場合が多く人間関係のトラブルに発展するだけ。
ターゲットにすべきは業務配分の「管理職」です。伝え方のコツは「感情論(しんどい)」ではなく「リスク論」に変換すること
上司は部下のメンタルダウンも怖いですが、それ以上に「生産性の低下(業績)」「退職者を出すこと」を恐れます。
「このままではチームの業務が回らず納期の遅延など会社のリスクにつながる」と伝えることで組織は重い腰を上げざるを得なくなります。
さいごに:あなたの優しさを「利用」させてはいけない

「会社のために誰かのために自分を削る」 その段階は、もう卒業しましょう。
Aさんのように「これ以上はやりません」と自分の守備範囲を固守し、たとえメイン業務が止まったとしても、それは組織の責任だと割り切る覚悟を持ってください。
あなたがパンクする前に、あえて「仕事が回らない状態」を可視化させることも大切。
もう、ひとりで背負わなくて大丈夫です。
