「職場の空気、なんかおかしいな…。違和感を覚えているのに誰にも言えずにいる。でも声を上げるのって正直怖いですよね。
「波風を立てたくない」そんな気持ちもあると思います。
わたしは人事と官公庁の労働相談窓口での経験を通じて多くのハラスメント事案と職場問題の解決に携わってきました。
そうした多くの相談対応を通じて、ひとつ確信していることがあります。
それはハラスメントという問題は決して加害者と被害者だけの問題ではなく、その周りに静かに広がっていく「見て見ぬふりの空気」こそが職場の環境をじわじわと壊していくということ。
この記事では、「沈黙」が職場にもたらす代償とご自身の立場や心を守りながらも職場のパワハラをなくすための現実的なステップをお伝えしていきます。
とくに記事の後半では私が人事部で実際に目にした事例や効果があった「賢い解決法」を具体的に紹介します。

「見て見ぬふり」をしてしまう自分を責めないで

まず最初にお伝えしたいのは「見て見ぬふり」をしてしまった自分を責める必要はない、ということです。
人事として数々の面談をしてきましたが声を上げられなかった人の多くは冷淡だから黙っていたわけではありません。
「次は自分がターゲットになるかも」「言っても無駄かもしれない」という恐怖と戦っていたのです。
官公庁の窓口でも後悔の念で涙を流す「目撃者」の方々にたくさん会ってきました。その「違和感」を覚えたこと自体が、あなたが健全な感覚を持っている証拠です。
「見て見ぬふり」「沈黙」が生む3つの代償

労働トラブルの現場で見てきた「見て見ぬふり」が招く深刻な結末は以下の3つ。
① 被害者への「見えない暴力(二次被害)」
被害者が最も絶望するのは加害者の攻撃そのものよりも「周りが誰も助けてくれない」という孤独。これが心の健康を奪い休職や退職、最悪の事態へと追い込んでいきます。
被害者がもっとも深く傷つくのは「ハラスメントを受けているのに周囲から助けがないと感じる」強い孤立感と絶望感なんです。
② 加害者の「増長」と勘違い
組織論の観点から言えば沈黙は「承認」と同じ。周りが黙っていると加害者は「自分のやり方は許されている」と学習し行為はエスカレートします。
このように周囲が見て見ぬふりをすることで職場全体に「ハラスメントをしても大丈夫」という良くないメッセージが広がってしまいます。
③ 職場全体の「腐敗」と離職の連鎖
一人の加害者を放置すると優秀な人から静かに去っていきます。残ったのは「諦め」が漂う重い空気。これは数字(生産性)にも露骨に表れます。
「言いたいことも言えない雰囲気」になってしまってせっかくのアイデアも出せなくなり仕事の成果も上がらなくなってしまいます。
なぜ「得体の知れない空気」に逆らえないのか

旧ジャニーズ問題などの会見でも話題になった「触れてはいけない空気」人事の目線で言えばこれは「心理的安全性の欠如」そのもの。
これらは人間の本能です。特に影響力のある人が加害者である場合、その人は「絶対的な存在」となり誰も何も言えなくなる。
その人の前ではビクビクしてしまう組織全体が「思考停止」に陥る様子を私は何度も目にしてきました。
例えば部署のリーダーがそんな人物だったら「あの人、確かにパワハラっぽいけど仕事できるし出世もしてるから……まぁいいか」と思ってしまう。
部下たちも「嫌われたくないし……」と我慢する。そのうち職場全体が「これが普通」と思うように。
法律と実務を知る私が勧める「3つのアクション」

ただ「勇気を出そう」と言うつもりはありません。現実的な武器を持ちましょう。
① 「ハラスメントの定義」を武器にする
「嫌だな」という感情だけでなく法律(パワハラ防止法など)で定められた定義を知っておくこと。
それだけで相談窓口に伝える時の説得力が大きく変わります。
普段の何気ない言葉や態度の中にもハラスメントの芽が潜んでいることがあります。
前もって対応方法を理解しておけば「これってどうしたらいいんだろう?」「どう動けばいいんだろう?」という場面でも適切な判断ができるようになります。
② 現場の違和感を「記録」に留める
直接の被害者でなくても「いつ、どこで、誰が、何を言ったか」を記録したメモは強力な証拠になります。官公庁の調査でも周囲の具体的な証言が決め手になるケースは非常に多いのです。
職場での会話や会議の中で、いつもと違う雰囲気や気になることはないか注意深く観察しましょう。
例えば「誰かの話が途中で遮られていないか」「特定の人ばかりが批判されていないか」「不公平な扱いを受けていないか」といった小さな変化に気づくことが大切。
ハラスメントを防ぐには、目の前で起きていることに関心を持ち「あれ?」と思ったら気にかけることが重要です。
ただ見ているだけでなく職場のみんなが気持ちよく働けるよう気を配っていきたいですね。
③ 「孤立させない」小さな声がけ
大げさな抗議は不要です。「大丈夫?」「さっきのは大変だったね」という一言だけで、被害者の心の支えになります。
ハラスメントの被害に遭っている方を見かけたら少しだけ勇気を出して声をかけてみませんか。
「大丈夫?」「何かできることある?」といった一言だけでも孤独と戦っているその方にとって心強い支えになるはず。
そうした声かけは、被害に遭っている方に「あなたはひとりじゃない」というメッセージを伝える大切な機会になります。
一緒に記録を取ったり適切な相談窓口を探したり上司や人事への相談方法を考えたりと、できる範囲でサポートしていきましょう。
ひとりで声をかけづらい場合は信頼できる仲間と協力しながら行動してみるのもよいでしょう。
【実録・裏技】ドラマのような「正義のヒーロー」はいらない|ある社員が組織を動かした話

パワハラ上司がいる職場を変えようとするとき、ひとりで正面から「それはおかしい!」と戦うのは、あまりにリスクが高すぎます。
私が人事時代に目撃したある中堅社員・Aさんのエピソードをご紹介します。
彼は決して目立つタイプではありませんでしたが「組織のルール」を賢く使い見事に職場を浄化させました。彼が取ったステップは驚くほどシンプルで、かつ戦略的でした。
- 集団の力(サイレント・マジョリティ)を可視化する: 同じ思いを持つ仲間を一人、また一人と増やしていく。
- 人事・経営層とパイプを持つ人を味方につける: 「会社にとってのリスク(法的リスクや離職リスク)」として報告してもらう。
- 「外の力」の存在を匂わせる: 労働局や弁護士など会社が恐れる「外部機関」のワードを適切に使う(※使い方は注意が必要)
①「共感する仲間」をランチで集める
Aさんは目の前で上司にパワハラされている同僚のことを一人で悩むのをやめました。
休憩時間に「最近、職場の空気が重いよね……」と信頼できる同期にボソッと漏らしてみたのです。すると「じつは私も……」と次々に賛同者が現れました。
個から集団化(仲間を増やす)
②「情報通(ウワサ好き)」の力を借りる
次に彼がしたのは社内で顔が広く少しお喋り好きなBさんに現状をポロっと話すことでした。
「あの上司の件、みんな困ってるみたいですよ」と。 Bさんのネットワークを通じて「あそこ、かなりヤバいらしいよ」という空気感が本人や上司の耳に入らないレベルで職場全体にじんわりと広がりました。
周囲に認知させる
③「人事・経営陣への架け橋」を持つ人を動かす
ここが最も彼らしい一手でした。Aさんは直接窓口へ行く前に経営陣と仲が良い他部署の先輩に相談したのです。
「このままだと若手が行政機関に駆け込むかもしれません。そうなると会社のリスクになりませんか?」
この「会社のリスク」という言葉が経営の重い腰を上げさせるスイッチになりました。
感情論ではなく「会社にとっての損失」として情報を届ける
元人事・労働相談員として伝えたいこと
最終的に人事が動いたときAさんは一人ではなく仲間たちと一緒に「共通の記録」を持って面談に臨んだんです。
「組織全体の声」としてハラスメントがはっきり見えた瞬間、会社も動かざるを得なくなったんですよね。
その結果、問題の上司は異動になり職場には数年ぶりに穏やかな空気が戻ってきました。
Aさんが成功できたのは「ひとりで戦わなかったこと」「みんなで事実を突きつけたこと」「組織をどう動かすか分かっていたこと」なんです。
賢いやり方だと感心しました(笑)
さいごに:あなたの違和感は「正解」です

職場の雰囲気を変えるのは勇気がいりますよね。でも小さな一歩が大きな変化のきっかけになります。
「これってちょっとおかしくない?」と感じたら「ちょっと待った!」と言える職場になるよう声を出していきたいですね。
そして何より大切なのはハラスメントで悩んでいる人に「大丈夫?」「何かできることある?」と声をかけること。たった一言でも「見て見ぬふりしてないよ」という温かいメッセージになりますから。
noteでは「静かな通報術」や「具体的な実践編」をまとめています。



